2018年8月20日月曜日

2つの例文からポルトガル語の時制のことを考える

白水社の「ニューエクスプレスブラジルポルトガル語」香川正子著を今年初めから独習し始めて7ヶ月、全20課のうちようやく第19課までたどり着いた。
今日第18課を復習していて、指示代名詞の2つの例文のところで疑問が湧いた。
その例文がこれ。

Não sabia disso.
私はそのことを知りませんでした。
Eu não tinha pensado nisso.
私はその事を考えていませんでした。

いずれも過去のことを述べている文章だが前者は不完全過去、後者は過去完了で表現されている。

まず前者の「私はそのことを知りませんでした」について。
例えば同じ過去のことを述べるのに「私は昨日銀行へ行かなかった」という文章ならば
Não fui ao banco ontem.
というふうに過去形で表現するわけだが、それと同じように知らなかったことを過去形で
Não sabi disso.と言ってはいけないだろうか。
そしてそれが許されないなら、行かなかったことと知らなかったこと、あるいは「行く」と「知る」の違いは何なのか。

第14課の不完全過去を勉強していて、完全過去と不完全過去の違いを自分なりに考えたのは、
完全過去というのは「終了報告文」(上官殿、私は何々し終わったであります!)ではないかということ。
そして不完全過去というのは「(始まりも終わりもない)過去の『ある状態』を回顧する文」(何々していたなぁ~(遠い目))ではないかということ。
そしてこの二者を区別するには「当時」という言葉を挿入できるかどうかではないか。

例えば「私は昨日銀行に行かなかった」に当時を入れると不自然ですが、「私はそのことを知りませんでした」に当時を入れると「当時私はそのことを知らなかった」となる。
したがって「私はそのことを知りませんでした」は不完全過去で表現すればよい。

じゃあはじめに戻って、後者の「私はその事を考えていませんでした」はどうか。「当時」を入れてみると「私は当時そのことを考えていませんでした」。うん。通じる。じゃあこの文は不完全過去として
Eu não pensava nisso.とすればいいのではないか。でも例文では過去完了で表現されている。それはなぜか。




過去完了というのは「私が家に着いたとき息子は寝ていた」というように「過去から見た過去を」あるいは「過去におけるある状態を過去から見た視点で」表現するときに用いられるが、大事なことはこの文型では「視点が過去のある時点に置かれている」ということだ。

ということはある状態を表現するのに「完全過去」でも「不完全過去」でもなく「過去完了」を使うべきかどうかを判断するには「そのとき」、いやもっとピンポイントで「その瞬間」という言葉を仮想的に挿入してみたらどうだろう。
例えば前者の「私はそのことを知りませんでした」では「(その瞬間)私はそのことを知りませんでした」となってちょっと不自然だが、後者の「私はそのことを考えていませんでした」に「その瞬間」を入れると「(その瞬間)私はそのことを考えていませんでした」となり意味が通るので、この文は過去完了を選択すべきだとわかる。「そのとき」なら「当時」のように時間に幅があるけれども、「瞬間」には幅がないので「知っているかどうか」という幅のある事象には適合しないわけだ。

「当時」か「その瞬間」か。詠嘆的か叙述的か。
前者は「(当時)私はそのことを知らなかった」という思い出話的な表現であり、後者は「(その瞬間)私はそのことを考えていなかった」という、回想シーン描写とも言える。
思い出話か、回想シーンか。同じようでちょっと違う。


以上はポル語学習初心者の想像ですので間違っていればご指導下さい。